
こんにちは!雑記に書きたいことがなくて更新しないつもりでしたが、ギリシャ神話の勉強をしていたら萌えたのでやってきました。
ホメロス(紀元前8世紀)の「イリアス」に続いてクイントゥス(3世紀)の「トロイア戦記」を読んでいます。
読み始めてから気がついたのですが、「イリアス」が書かれた時代と「トロイア戦記」が編纂された時代の間には1000年ほどの隔たりがあるようです。源氏物語の空白の巻を現代人が埋めるみたいな感じかな? 「トロイア戦記」に書かれている内容はクイントゥスさんが創作したものではなく、劇作品、詩、歴史書などにばらばらに記述されていたものを一つの物語の形式にまとめた、という内容ということです。
トロイア戦争は、現在のトルコ南西部あたりにあったとされるトロイアという国と、現在のギリシャにあった古代ギリシャの連合軍との戦争ですが、物語上はトロイアの王子パリス(アレクサンドロス※アレクサンドロス大王ではない)がスパルタ王メネラオスの妻ヘレネを拐かしたことが原因でギリシア勢vsトロイアの戦争が勃発したことになっています。
そして、トロイアは有名な「トロイの木馬」作戦で陥落し、直系の血族は途絶えますが傍系のアイネイアスが生き残ってイタリア半島に渡り、ローマの礎を築いたというお話につながっていきます。
史実では古代ギリシャは紀元前146年、ローマに破れて属国となりますので、結局長い目で見ればトロイアの血筋がギリシャを制圧したと読めないこともないと思うのですが、それを古代ギリシャ人が書いているというのがなんとも不思議な感じがいたしますね。

で、ガニュメデスもトロイア王家なわけですが。古代ギリシャに関する現代の物語や絵本を読んでいると、ガニュメデスはゼウスに攫われた当初、「塞ぎ込んでいた」「父母が心配していないか不安がっていた」みたいな記述をよく見ます。しかしこれは単なる近代的な価値観に基づく記述で、古代ギリシャ(特に初期)において書かれた物語にはそういう記述は出てこないんじゃないかなあって気がします。特に初期あたりの古代ギリシャは、成人男性以外の女子供にはあまりスポットライトが当たっていないので‥
普通に考えて不老不死にされた上で自分の故郷が燃え落ちるの見させられるのキツすぎん? と思うので、誰かがそういう物語を書いていないものかと思っていたので見つかって嬉しかったです。
男たちは休みなく闘っていた。城壁も高い塔も、胸壁も埃まみれの血で赤く染まっていたが、そこではトロイア人たちががっしりしたアカイア勢の矢で殺されていた。だがアカイア勢も戦闘に距離を置いていたわけではなく、多くの者が大地を朱に染めていた。双方で、倒された者たちが高所から投げ落とされて死んでいた。残虐な戦闘女神エニュオーが小躍りして戦闘を展開させていた。これは戦闘神ポレモスの姉妹である。そしてギリシャ勢は、身内にとてつもない力がみなぎっていたので、トロイアの門や城壁を破壊したかもしれない。もしもそのとき天から見下ろしていた高名なガニュメーデースが、すぐさま叫ばなかったならば。彼は祖国のことが心配で心配でならなかった。
「父上、ゼウスよ、もし私があなたの血を引いており、あなたのご意思で誉れたかいトロイアを後にし、神々ととともに暮らし、そして永遠の生命を享けているというのなら、それならどうか、ひどく心を痛めている私の言葉をおききください。というのも、私は都が焼かれるのを目前にみる勇気はないし、同朋が恐ろしい戦闘で亡ぼされるのをみる勇気もありません。これ以上に手ひどい苦痛はありません。ですから、もしもあなたの心がそんな企てを望んでいるのでしたら、私から遠いところでなさってください。もしわが目にみるのでなければ、この苦痛はもっと耐えやすくなろうというものです。誰であれ、祖国が敵の手にかかって崩壊するのを目撃するのは、とてもみじめな、この上なくつらい事態なのですから。」
こうのべてガニュメーデースの輝かしい心は深い溜め息をついた。そこでゼウスはみずから、おびただしい雲でプリアモスの名だたる都をすっぽりとおおった。男たちを亡ぼす戦いが闇につつまれた。男たちの誰一人として、城壁がどこにあるのか、はっきり見定められる者はなかった。都が濃密な雲で完全につつまれていたからだ。そしてあたりでは、空から、雷鳴がとどろき、稲妻が走っていた。ギリシャ人たちはゼウスの大音声を耳にして魂消れていた。
ークイントゥス・松田治訳「トロイア戦記」第8巻
気持ち的には・・クイントゥス先生のゼウス×ガニュメデス小説を読んで爆萌えになってしまったって感じですかね。
この後、ギリシア勢は「ゼウスがトロイア側に味方している‼︎」といって騒ぐのですが、ゼウスはこの戦争でトロイアが滅びるのは知っているので、これは単にガニュメデスにその瞬間を見せたくなかったというだけなんだと思います。(それでもガニュメデスに言われて気づいたって感じで、ノンデリはノンデリなんだけど‥)
なんとなく、ホメロスの「イリアス」が書かれた当時だとこういう記述はありえなかったんじゃないかなあ‥と思いました。時代が進んで弱い者の声が描かれる時代になったからこその記述かも。
かなり時代が進んだものを読んでしまったので、まだ先になると思いますが、読み終わったらプラトンの「饗宴」でも読もうかなあと思っています。あとはオウィディウス「変身物語(メタモルポーシス)」も読みます。(最初、「8世紀」と書いてたのですが、ちゃんと見たら紀元8年でした・・嘘書いてごめん ローマ人であるオウィデウスさんにより書かれた作品で、トロイア戦記よりは先みたいです!)
日本語訳しか読んでないから実際のところはどうだかわかりませんが、ホメロス先生の方がやっぱり語りは上手だと感じますね。